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東京地方裁判所 昭和42年(特わ)51号 判決 1968年2月27日

本籍

東京都江戸川区中央四丁目二一番地

住居

東京都杉並区和泉三丁目一七番九号

医師

皆川次郎

大正四年七月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中野泰出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金一、八〇〇万円に処する。

右罰金を完納しないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

但し、本裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、医師の免許を有し、東京都渋谷区渋谷一丁目二四番地において渋谷整形外科医院名義で美容整形外科医業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れるため、診療収入の一部を除外して簿外預金を設定する等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一、昭和三八年分の実際課税所得金額は別紙第一修正貸借対照表(昭和三八年一二月三一日現在の分)並びに別紙第四税額計算書(昭和三八年分)記載のとおり五、一九四万六、五七〇円であつて、これに対する所得税額が二、九九八万三、二一〇円であるのにかかわらず、昭和三九年三月一四日、同都渋谷区宇田川町二八番地所在の所轄渋谷税務署において同署長に対し、課税所得金額は五二一万〇、四九五円でこれに対する所得税額は一六一万四、三九〇円である旨の内容虚偽の確定申告書を提出して、正規の所得税額と申告税額との差額二、八三六万八、八二〇円については法定の納付期限内に納付せず、もつて不正な行為により右同額の所得税を逋脱した

第二、昭和三九年分の実際課税所得金額は別紙第二修正貸借対照表(昭和三九年一二月三一日現在の分)並びに別紙第四税額計算書(昭和三九年分)記載のとおり四、八一八万一、一五四円であつて、これに対する所得税額が二、七三二万二、七二〇円であるのにかかわらず、昭和四〇年三月一五日、前同税務署において同署長に対し、課税所得金額は六五六万四、一九四円でこれに対する所得税額は二二一万四、三〇〇円である旨の内容虚偽の確定申告書を提出して、正規の所得税額と申告税額との差額二、五一〇万八、四二〇円については法定の納付期限内に納付せず、もつて不正な行為により右同額の所得税を逋脱した

第三、昭和四〇年分の実際課税所得金額は別紙第三修正貸借対照表(昭和四〇年一二月三一日現在の分)並びに別紙第四税額計算書(昭和四〇年分)記載のとおり五、四九三万四、七〇二円であつて、これに対する所得税額が三、二〇〇万〇、五四〇円であるのにかかわらず、昭和四一年三月一五日、前同税務署において同署長に対し、課税所得金額は九五九万九、三三六円でこれに対する所得税額は三六九万六、四〇〇円である旨の内容虚偽の確定申告書を提出して、正規の所得税額と申告税額との差額二、八三〇万四、一四〇円については法定の納付期限内に納付せず、もつて不正な行為により右同額の所得税を逋脱した

ものである。

(証拠の標目)

(一)、全般について、

一、証人木村一作、同大平さよ子の各当公判廷における供述

一、原伸一の検察官に対する供述調書

一、岡安利親の大蔵事務官に対する質問てん末書二通並びに検察官に対する供述調書一通

一、采野浩志、村越節夫の大蔵事務官に対する質問てん末書各二通

一、恵義和の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、大蔵事務官斉藤勝爾作成の脱税額計算書三通

一、押収にかかる売上メモ一袋(昭和四二年押第九〇四号の二)、給料関係メモ一袋(同号の三)、収入メモ等三綴(同号の五)、収入明細一綴(同号の六)、収入記入帳(同号の一八)、治療代集計表三綴(同号の一九)、総勘定元帳一冊(同号の二六)、皆川次郎関係取引メモ一綴(同号の二八)、所得税確定申告書計三綴(同号の三〇、三一、三二)、所得税修正申告書一綴(同号の三三)並びに収入集計表一綴(同号の三四)

一、被告人作成の上申書二通(但し、昭和四一年八月二五日付=以下四一・八・二五の如く略記、四一・九・一二)、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一三通並びに検察官に対する供述調書七通(末尾添付の上申書を含む)

一、被告人の当公判廷における供述

(二)  別紙第一ないし第三各修正貸借対照表の勘定科目のうち、

(1)  預金及び預金利息について、

一、常陽銀行銀座支店長石川操作成の上申書

一、同銀行真岡支店長篠上博満作成の証明書二通

一、押収にかかる定期預金明細メモ一袋(前同押番号の一)

(2)、仮払金について、

一、向井正の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、被告人作成の上申書二通(四一・八・一八、四一・一一・二)

(3)、前渡金について、

一、株式会社丸亜通信社代表者増田敦作成の回答書

(4)、貸付金について、

一、向井正作成の上申書(四一・五・三〇)

一、下村信夫作成の上申書

一、米川泰夫、皆川倫子の各大蔵事務官に対する質問てん末書(但し、皆川については四一・四・一八)

一、押収にかかる借用証一綴(前同押番号の一七)

一、被告人作成の上申書三通(四一・七・九のもの二通、四一・六・三〇)

(5)、有価証券について、

一、東京輸送機工業株式会社代表者杉本博行、山一証券株式会社上野支店長古沢武夫各作成の上申書(但し、古沢の分は二通)

一、大蔵事務官本山和博、同佐藤重雄各作成の現金有価証券等現在高検査てん末書

一、大蔵事務官斉藤勝爾作成の有価証券調査書

一、被告人作成の上申書(四一・九・九)

(6)、たな卸高について、

一、押収にかかる青色申告書書類綴一冊(前同押番号の三九)

(7)、車両について、

一、株式会社瀬専務取締役小林万寿夫作成の回答書

(8)、器具備品について、

一、山田医療照明応式会社代表者山田豊郎、株式会社速水家具卸センター代表者速水健司、株式会社進栄堂器機店代表者斉藤範雄各作成の回答書

一、株式会社アキハ電気商会代表者中村正秋作成の上申書

一、大蔵事務官荒井啓亘作成の検査てん末書(四一・九・二)

一、被告人作成の上申書(四一・五・三一)

(9)、事業用土地について、

一、上郎敏行、宮崎茂子、西北建設企業組合代表者名倉庄一(但し、四一・五・二〇)、陸野恒義各作成の上申書

一、東京都渋谷税務事務所長本郷太郎、同都世田谷税務事務所長新庄三治各作成の回答書(但し、本郷の分は二通)

一、橋本光、陸野恒義の各大蔵事務官に対する質問てん末書

一、大蔵事務官斉藤勝爾作成の検査てん末書(四一・八・二六)並びに電話加入権調査書

一、押収にかかる登記済権利証等一袋(前同押番号の四)、不動産売渡証等計二綴(同号の八・一〇)、売買契約書等一綴(同号の一三)、土地賃借権譲渡契約書一綴(同号の一五)、解除条件附家屋並びに土地賃借権譲渡契約書一綴(同号の一六)、成城町建築関係書類一綴(同号の二一)並びに土地売買契約書一綴(同号の二九)

(10)、事業用建物について、

一、西北建設企業組合代表者名倉庄一、小西賀子、遠藤清各作成の上申書(但し、名倉の分は二通)

一、大蔵事務官荒井啓亘作成の検査てん末書(四一・九・二〇)

一、不動産売渡証書等計四袋(前同押番号の七・九・一〇・一一)、土地賃借権譲渡契約書一綴(同号の一五)、解除条件附家屋並び土地賃借権譲渡契約書一綴(同号の一六)並びに成城町建築関係書類一綴(同号の二一)

(11)、自家用土地建物について

一、梅田倡之亮、西北建設企業組合代表者名倉庄一(但し、四一・五・二〇)、小西賀子、有限会社近藤造園代表者近藤仁三郎各作成の上申書

一、土井和夫の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、大蔵事務官斉藤勝爾作成の検査てん末書(四一・九・一二)

一、押収にかかる不動産売渡証等計三袋(前同押番号の一〇・一一・一二)、売買契約書等一綴(同号の一四)、登記済権利証等二綴(同号の二三)、不動産売買契約書等一綴(同号の二四)、不動産売買契約書一綴(同号の二七)並びに領収書一綴(同号の三八)

(12)、電話加入権について、

一、白浜行雄、陸野恒義、日本電話サービス社長尾五郎各作成の上申書

一、陸野恒義の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、大蔵事務官斉藤勝爾作成の検査てん末書(四一・九・一二)電話加入権調査書並びに調査報告書

一、被告人作成の上申書二通(四一・六・三〇、四一・九・九)

(13)、保証金について、

一、牧博夫の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、片桐千春、宮崎茂子、有限会社桜田商事代表者重田平八郎各作成の上申書

(14)、権利金について、

一、片桐千春、宮崎茂子各作成の上申書、

(15)、前払利息並びに借入金について、

一、常陽銀行銀座支店長石川操作成の上申書

(16)、店主勘定について、

一、皆川倫子、大小原里奈、株式会社英国屋代表者小林新三郎、株式会社東京家具センター代表者倉島延三、向井正(但し、四一・六・一六・四一・一一・一)各作成の上申書

一、皆川倫子の大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一、大小原里奈の大蔵事務官に対する質問てん末書二通並びに検察官に対する供述調書

一、不二スバル自動車株式会社伊藤治郎、株式会社大場土木建築事務所代表者大場宗憲、株式会社速水家具卸センター代表者速水健司、東京都世田谷区長佐野保芳、渋谷税務署長佐藤雄次郎(二通)、東京都杉並区菊地喜一郎、同都渋谷区助役井上内藤之助、同都渋谷税務事務所長本郷太郎(但し、四一・八・二六)、日本火災海上保険株式会社佐々木文三郎各作成の回答書

一、大蔵事務官斉藤勝爾作成の検査てん末書二通(四一・九・一六、四一・一一・二)、店主勘定調査書並びに租税、課税納付状況調査書(二通)

一、大蔵事務官荒井啓亘作成の家具備品取得状況調査書

一、押収にかかる保険証券一綴(前同押番号の三六)

(17)、家事関連費について、

一、株式会社瀬専務取締役小林万寿夫、安全石油株式会社代表者川鍋秋蔵、ロリベツクオーレル保険センター代表者ポール・W・オーレル各作成の回答書

一、西北建設企業組合代表者名倉庄一作成の上申書(四一・七・八)

一、押収にかかる納品書請求書等一綴(前同押番号の三五)

(18)、未払税金について、

一、東京都渋谷税務事務所長本郷太郎、同都世田谷区税務事務所長新庄三治、同都杉並税務事務所長五十嵐茂各作成の回答書(但し、本郷作成の分は二通)

一、大蔵事務官斉藤勝爾作成の未払税金調査書並びに租税、課税納付状況調査書

一、押収にかかる税金関係領収証等一綴(前同押番号の三七)

(19)、買掛金について、

一、安全石油株式会社代表者川鍋秋蔵、相模商工株式会社代表者比田井健一各作成の回答書

(20)、未払金について、

一、株式会社興報社代表者今野重治郎、株式会社速水家具卸センター代表者速水健司、有限会社池袋広信社代表者片野邦夫、株式会社ソシヤル広告社代表者向井正各作成の回答書

一、古屋政夫作成の上申書

(21)、前受金について、

一、東海銀行渋谷支店長中村恵二作成の回答書

(22)、支払手形について、

一、株式会社瀬専務取締役小林万寿夫作成の回答書

(23)、有価証券売却益について、

一、山一証券株式会社上野支店長古沢武夫作成の上申書二通

(24)、投資信託分配益について、

一、山一証券株式会社上野支店長古沢武夫作成の上申書(四一・八・二七)

(25)、配当収入金について、

一、株式会社日立製作所作成の上申書

(法令の適用)

被告人の判示各所為中、第一及び第二の事実はいずれも昭和四〇年法律第三三号所得税法附則第三五条により、その改正前の所得税法第六九条第一項に、第三の事実は昭和四〇年法律第三三号所得税法第二三八条第一項に各該当するところ、情状により懲役刑と罰金刑を併科すべく、而していずれもその免れた所得税額が五〇〇万円を超えるので、第一及び第二の事実については改正前の所得税法第六九条第二項を、第三の事実については現行の所得税法第二三八条第二項を適用して罰金刑については五〇〇万円を超えその免れた所得税の額に相当する金額以下で処断することとし、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法第四七条本文、第一〇条により最も犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をなし、罰金刑については同法第四八条第二項によりその合算額の範囲内においてこれを科すべく、よつて右刑期並びに金額の範囲内において被告人を懲役一〇月及び罰金一、八〇〇万円に処し、右罰金を完納しない場合の換刑処分については、刑法第一八条第一項により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、諸般の情状を考慮し同法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤暁)

別紙第一

修正貸借対照表

皆川次郎

昭和38年12月31日

<省略>

別紙第二

修正貸借対照表

皆川次郎

昭和39年12月31日

<省略>

別紙第三

修正貸借対照表

皆川次郎

昭和40年12月31日

<省略>

別紙第四

税額計算書

昭和38年度(別紙第一)

<省略>

昭和39年度(別紙第二)

<省略>

昭和40年度(別紙第三)

<省略>

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